- 法人を設立することの税務上のメリットを教えてください。
- 法人を設立することで、所得分散による超過累進税率の緩和等の節税効果が図れます。
⑴ 法人設立のメリット
一般的に次の事項が挙げられます。
① 不動産オーナーの所得分散による超過累進税率の緩和(所得税対策)
課税所得金額が多額となる不動産オーナーが会社に所得を分散することで、超過累進税率の緩和が図れます。
② 役員報酬の支給による所得の分散(所得税対策)
一般的に、会社役員には不動産オーナーの子や孫などが就任されます。これらの役員に対し、税務上適正な範囲で役員報酬を支給することで、 不動産オーナーの所得の分散が図れて超過累進税率が緩和されます。
したがって、役員の人数に比例し税金の軽減額は多くなります。
③ 役員報酬に対する給与所得控除(所得税)
個々の役員に支給される役員報酬には、所得税の給与所得控除の適用を受けることができます。
④ 相続税課税対象財産の増加の防止(相続税対策)
不動産オーナーの本来の所得を会社へ分散することにより、不動産オーナーの金融資産の増加を防ぐことができます。
それ故相続税の節税が図れます。
⑤ 後継者の株式所有(相続税対策)
不動産オーナーではなく後継者が株式を所有することで、不動産オーナーの相続財産増加を防ぐことが可能となります。
⑥ 土地の相続税評価額の減額(無償返還届出書の提出)(相続税対策)等
建物を所有している法人と土地を所有している不動産オーナーとの賃貸借契約で、土地の無償返還に関する届出書を提出した場合、不動産オーナーの土地相続税評価額は20%評価減の適用が可能となります。
⑵ 法人設立のデメリット
一般的に次の事項が挙げられます。
① 設立費用の負担
会社設立には、原則として登録免許税や司法書士報酬等の負担が必要となります。
② 社会保険加入
会社は、原則として社会保険(健康保険・厚生年金保険等)に加入する必要があります。
これにより社会保険料(会社負担分)の支払いが法人には生じます。
③ 法人税申告書の作成・提出
法人を設立した場合、原則として毎期法人税申告書の作成・提出が必要となります。
④ 赤字でも均等割の負担が必要
法人の場合は赤字でも地方税の均等割として年間約7万円の納税が必要となります。
⑤ 不動産オーナーの可処分所得の減少
不動産オーナーの所得を会社に分散するため、当然に不動産オーナーの可処分所得は減少します。
⑥ 建物建築後3年以内に相続が開始した場合、法人の株価は建築価額に基づいて算出等
法人株式を純資産価額方式で算定する場合において、建築後3年以内の建物は通常の取引価額(建築価額)で評価されます。
その結果、一般的には株価が通常の場合(3年経過後の建物の評価は固定資産税評価額)と比べ割高となります。
⑶ 法人設立を避けた方がよい場合とは
例1)不動産オーナーが同族会社の役員となり、高額な役員報酬が支給されている場合
例2)不動産オーナーが同族会社の株主となり、配当金をもらう場合
不動産オーナーの本来の所得や財産を会社に分散することで税負担の軽減を図る目的が、その会社から多額の役員報酬や配当金を受けることで自らの課税所得金額や相続財産(相続税課税対象財産)を増加してしまうことになり、達成されないためです。
したがって、上記理由から同族会社の株主は子や孫から構成されるのが望ましいと思われます。
⑷ 株式会社と合同会社の相違
法人の種類は、株式会社・合同会社・合資会社・合名会社などがありますが、不動産管理会社の場合には、株式会社または合同会社を設立することが一般的です。
株式会社または合同会社のいずれを選択するかは、目的や運営コスト、管理のしやすさ等を考慮し決定することになります。
【株式会社と合同会社の相違】
株式会社 | 合同会社 | |
---|---|---|
責任 | 有限責任 | 有限責任 |
配当 | 株主の出資割合に応じる | 原則自由 |
会社運営 | 所有と経営が分離している | 所有と経営が分離していない |
期間設計 | 株主総会・取締役1名以上 | 制約なし |
意思決定 | 株主総会の普通決議、特別決議、特殊決議 | 社員の一定数の同意 |
議決権 | 出資額による | 1人1議決権 |
役員 | 役員は株主とは限らない (株主以外から役員を選任できる) | 役員は出資者から構成される (出資者以外から役員を選任できない) |
役員任期 | 10年 | 定めなし |
決算公告 | 義務あり | 義務なし |
定款認証 | 要 | |
登録免許税 | 15万円(最低) | 6万円(最低) |
相続 | 株式が相続される | 持分は相続されない(定款に定めがあれば相続される) |
⑸ 会社設立で準備(検討)する事項とは
主に次の事項が挙げられます。
① 商号の決定
② 本店所在地の決定
③ 資本金の決定
現在の会社法では資本金1円でも会社を設立することは可能ですが、事業を運営していく資金が必要となりますので、現実的ではありません。
また資本金等の額が1,000万円以下の場合と1,000万円超の場合で地方税の均等割が異なること、資本金の額が1,000万円以上である場合(消費税の新設法人に該当する場合)、設立初年度から消費税の納税義務が発生しますので、資本金を1,000万円未満にするケースが多いようです。
④ 決算月の決定
会社の決算月は任意に決定することができます。
一般的な決算月として3月や12月もありますが、個人事業と不動産管理会社経営の確認をするための機会を増やすという観点から、個人所得税の決算期末である12月以外で法人の決算期を決めるという考え方もあります。
また、決算月から2ヵ月以内に法人税申告書の作成・提出が必要となりますから、その時期を繁忙期と重ならないようにすることも検討して決定する必要があると思われます。
⑤ 株主の決定
一般的に不動産オーナーから所得の分散を受けた法人の株価は上昇します。
したがって、この株式を所得の分散を行った不動産オーナーが所有したのでは節税対策として本末転倒な結果となってしまいます。
故に株主は、子や孫などの次の世代が望ましいと思われます。
⑥ 役員の決定
役員は経営を執行し、その対価として役員報酬を受け取ります。それゆえ所得の分散を考慮すると、役員は不動産オーナーより配偶者や子・孫が就任された方が望ましいということになります。
しかし、そもそもとして役員としての資質の問題や業務実態に則した役員報酬額の支給等、役員の決定に関し検討するべきことは多々あります。
⑹ 不動産管理会社の種類
主に次の3つの形態があります。
① 管理方式
個人名義で不動産を所有し、不動産管理会社がその物件を管理する方式
② サブリース方式
個人名義で不動産を所有し、不動産管理会社に一括して貸付ける方式
③ 不動産所有方式
設立した法人が不動産を所有する形式
⑺ 不動産管理会社の税務調査事項
主に下記事項につき調査が行われます。
- 礼金や敷金の計上漏れはないか
- 自宅部分の修繕費を事業経費として計上していないか
- 管理業務委託契約書などの契約書の確認
- 不動産管理会社の管理業務実態の確認
- 不動産管理会社への管理料は適正金額であるか
- 親族に対する役員報酬額は適正金額であるか等